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成長ホルモン治療についての詳細


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Contents

成長ホルモンの投与法

成長ホルモン分泌不全性低身長症やターナー症候群と診断されると、保険診療による成長ホルモン治療を行えます。ここでは低身長専門外来で行われている、成長ホルモン治療の概要を説明します。

成長ホルモンは、191個のアミノ酸が結合したタンパク質です。そのため、経口摂取しても胃の中で小さなアミノ酸に加水分解された後に吸収されるため、成長ホルモンとしての作用は全く示すことができません。したがって、注射で投与するしか今のところ方法はありません。細かなパウダーにして、肺から吸収させる試みは欧米で行われており、将来的には実用化するかもしれません。

成長ホルモン治療は自己注射が認められていますので、家で注射しながら治療することになります。成長ホルモンは夜寝てからの最初の一番深い睡眠の時に大きな分泌がみられるので、なるべくそれに合わせるために、寝る前に成長ホルモンの注射をします。

ほとんどの注射器はペン型です。針は非常に細いので、痛みはそれほどありません。小さいお子さんで針を怖がる場合には、針無し注射器を使って寝てから打つという方法も可能です。針無し注射器は一瞬で注射ができて痛みもほとんどないので、寝ているときに注射しても、お子さんは注射されていることがわかりませんし、両親もこどもに痛みを与えているという心の痛みを感じずにすみます。

成長ホルモン注射は、週6~7回とされていますが、週7回すなわち毎日注射するほうが治療効果が高いと報告されています。

ポイント

成長ホルモンは自己注射が認められています。ペン型の細い針による注射器や針無し注射器を用いるので、こともに痛みを与えることはほとんどなありません。週6~7回注射します。

 

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成長ホルモン治療の副作用

現在、成長ホルモン治療中におこる患者さんにとってよくない事は、すべて有害事象として報告することになっています。

たとえその有害事象が、成長ホルモン治療に直接関係なくても報告対象となります。したがって、風邪をひいたり、交通事故にあうことも有害事象として報告されることがあります。こうした数多い有害事象のなかで、成長ホルモン治療との関連性が否定できない事象が副作用ということになります。

成長ホルモンの副作用

成長ホルモン治療において皆さんが一番懸念されるのは、副作用だと思います。

しかし、注射する成長ホルモンは、からだで作られているのと同じものを、遺伝子組換え技術を用いて大腸菌などに作らせて高純度に精製していますので、基本的に副作用はありません。

以前、ヒトの下垂体から抽出・精製して作っていた成長ホルモン製剤では、クロイツフェルト・ヤコブ病重症の神経疾患)の病原体が取り除けず感染したことがありました。しかし、現在使われている遺伝子組換え成長ホルモンでは、感染のおそれはありません。

ただし、注射する量は、からだの中で作られる量より多いので、成長ホルモンの作用が強くあらわれることがあります。現在報告されている有害事象のなかで多いのは、検査の異常値です(下表参照)。しかし、これらの検査値は、成長ホルモンの作用が強くあらわれているだけで実害はほとんどありません。

発現例率(%)
CPK 0.53
ALT(GPT) 0.38
AST(GOT) 0.36
顕微鏡的血尿 0.32
アルカリフォスファターゼ上昇 0.30
蛋白尿 0.25
グルコヘモグロビン上昇 0.19
好酸球増多 0.17

CPK(クレアチン・フォスフォーキナーゼ)、またはCK(クレアチン・キナーゼ)は、筋肉中に存在する酵素で筋ジストロフィーの疾患などで上昇しますが、正常のヒトでも運動した後には上昇します。成長ホルモンには筋肉を作る作用もあるので、一時的にこの数値が上昇してしまうのです。

AST(GOT)、ALT(GPT)は、肝臓の酵素で肝機能異常のマーカーです。成長ホルモンは肝臓にも作用して、IGF‐I(インスリン様成長因子、ソマトメジンC)などの成長因子を多く作るので、肝臓の酵素活性が一時的に上昇することがあります。また風邪などのウイルス感染でも上昇することがあります。当然、成長ホルモン治療中に風邪をひくこともあるため、肝機能異常のマーカーが有害事象の報告に挙げられているものだと思われます。

顕微鏡的血尿も、成長ホルモンが腎臓の血流量を増すので、赤血球が少量尿に漏れることがあります。約1~2%ぐらいの患者さんで尿潜血陽性反応があらわれますが、腎機能は障害されないので、ほとんどの場合は経過観察ですみます。

ALP(アルカリフォスファターゼ)は肝臓や骨にある酵素ですが、こどもの場合は主に骨の活性をあらわします。成長が促進すると骨の酵素の活性も高まり、基準値以上になることもありますが、注射しているお子さんにとっては、よく成長しているということで、マイナスになることはありません。

蛋白尿は腎機能障害のマーカーですが、正常なこどもでも、特に思春期ごろは、運動後などにときどき蛋白尿がみられるので、成長ホルモン治療との因果関係は明らかではありません。

グルコヘモグロビンまたはヘモグロビンAlCは、糖尿病の指標です。成長ホルモンは血糖を上げる働きがあるので、この指標は注意する必要があります。しかし、成長ホルモンを投与すると血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌も高まるので、実際に糖尿病になる人の頻度は、一般発症頻度を超えているとは考えられません。

好酸球は、アレルギー体質のヒトに多く見られる白血球の種類で、現代はアレルギーをもっているこどもが増えているので、これも成長ホルモンとの関連はないと考えられています。

関節痛は、成長ホルモンにより急に成長が促進されたときに成長痛があることがあり、成長ホルモンと関連があるかもしれません。たいていは安静にすると痛みが消えるので、心配する必要はないでしょう。

ポイント

治療で使う成長ホルモンは、体内で作られているものと同じものを人工合成したものなので、基本的に重大な副作用はありません。検査値に異常が出ることもあるが、深刻なものは報告されていません。

脳腫瘍の再発と成長ホルモン治療

「脳腫瘍の再発」という有害事象は、もともと脳腫瘍によって成長ホルモンの分泌が障害され、成長ホルモン分泌不全性低身長症になったこどもが成長ホルモン治療を受けていたケース
で、脳腫瘍が再発したような事例をいいます。

しかし、成長科学協会の成長ホルモン治療専門委員会・アドバース・イペント調査研究委員会の大規模な疫学調査で、脳腫瘍があって成長ホルモン治療を受けたこどもと、受けなかったこどもとでは、背景を同じにして比較すると再発率に差はありませんでした。したがって、成長ホルモン治療は脳腫瘍の再発には関与していないと結論づけられています。

ポイント

脳腫瘍が原因で成長ホルモン分泌不全性低身長症になったこどもに対して行われた成長ホルモン治療が再発リスクを高くする恐れはありません。

白血病と成長ホルモン治療

かつて、成長ホルモン治療と白血病の発症との関係が問題になったことがありました。しかしこれも、成長科学協会のデータベースを用いた解析で、腫瘍の治療に免疫抑制療法や放射線療法を行ったようなリスクの高い症例を除けば、成長ホルモン治療を受けたこどもの白血病の
発症率は、一般小児の発症頻度とほぼ同じであるという結果が出ています。

したがって、一般の小児における成長ホルモン治療は、白血病の発症のリスクを上げることはありません。

ポイント

かつて、成長ホルモン治療を受けると白血病の発症リスクが上がるという説がありましたが、現在では否定されています。

保険診療と小児慢性特定疾患治療研究事業による助成

成長ホルモン分泌刺激試験を行って、成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断がつくと、保険診療による成長ホルモン治療が行われます。しかし、成長ホルモン剤の値段は、日本は世界で一番高く、通常の健康保険の3割負担でもかなりの高額になります。

たとえば、20kgの体重のこどもに成長ホルモン治療を行う場合、成長ホルモンの値段だけでも月に約4万5000円になります。

成長ホルモン分泌不全性低身長症は、国と地方自治体が行っている助成事業の小児慢性特定疾患に含まれており、条件を満たすと3割負担分も大部分は助成されますが、その条件は非常に厳しく、成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断されても、小児慢性特定疾患治療研究事業の基準(下表)を満たすこどもは、半分ぐらいです。

ポイント

成長ホルモンが高額なため、健康保険が適用されても成長ホルモン治療は経済的な負担が重いのが現状です。成長ホルモン分泌不全性低身長症は小児慢性特定疾患に含まれており、条件を満たすと3割負担分も大部分は助成されるのですが、その条件は厳しいです。

成長ホルモンの注射の仕方

成長ホルモン注射は自己注射が認められており、少し訓練すれば誰でも安全に注射することができます。液漏れや指定量通り打てないなどの注射器にまつわるトラブルなどは時々ありますが、大きなトラブルはありません。毎日行うことなので、すぐに慣れます。

昔は、1回ごとに注射器に指定量の薬剤を注射筒に吸い込んで打っていましたが、現在は製剤ごとに専用カートリッジによるペン型注射器が使用されていて、打ち方も簡単になっています。また、針無し注射器の製剤もありますが、操作が少し難しいので、患者さんに合わせて選ぶとよいでしょう。

皮下注射する部位は基本的にどこでもよいのですが、臀部・大腿部・肩胛部・腹部などが安全に注射できます。小さい子では、痛みが少ない臀部にお母さんが打つことが多いようです。

同じ場所に何回も注射すると、その部分の脂肪萎縮や脂肪肥大が起こることがあるので、注射する部位は毎日変えるようにします。1日ごとに左右を代えて打つようにするとよいでしょう。また、カレンダーなどに記録しておくと打ち忘れが予防できます。

注射をするのは夜寝る前が理想的で、血中濃度や代謝に与える影響もより生理的でからだに負担がかからないことが知られています。小さい子などでは、ぐっすり寝入ってから注射してもかまいません。

風邪などで高熱があるときなどは、あまり効かないと考えられますので、注射をしなくてもかまいません。また、修学旅行など2~3日の旅行なども、精神的な面を考えたらしないほうがよいと思います。その場合は、前後2~3日は増量するようにします。

ポイント

成長ホルモンの皮下注射は自己注射が認められており、一般の人が行っでもほとんどトラブルはありません。注射する部位は、臀部・大腿部・肩胛部・腹部が可能ですが、幼児の場合は臀部にするのが一般的です。注射する場所は毎日変えるようにしましょう。

用量と用法

用量は疾患によって異なり、決められた用量を毎日注射します。週6~7回に分けて打つとされていますが、前述したように週7回、すなわち毎日注射したほうが生理的ですし、治療効
果も高いと報告されているので、私は毎日注射するようします。

成長ホルモン分泌不全性低身長症での用量は、0.175mg/kg/週ですので、たとえば体重20kgなら週3.5mgで、1日0.5mg打ちます。体重24kgなら週4.2mgで、1日0.6mgになります。体重は増えていくものなので、注射の用量もそれに応じて増えていきます。

注射する量はきりのよい数字ばかりではないので面倒ですが、基準量となる0.175mg/kg/週を下回らないように注意します。

成長ホルモン製剤は、冷蔵庫で保存します。溶解後も冷蔵保存しておけば効力は長期間安定です。常温でも効力はあまり低下しないので、一晩ぐらい冷蔵庫にしまい忘れても大丈夫です。しかし、冷凍するとその効力は減弱することが知られていますので、凍らせないようにしましょう。

ポイント

成長ホルモンの投与量は疾患によって異なります。決められた量を毎日忘れずに注射することが大切です。

成長ホルモン適応疾患と成長ホルモンの治療量

我が国では1975年に、成長ホルモン分泌不全性低身長症に成長ホルモン治療が初めて認められました。その後1991年にターナー症候群での使用が認められました。

しかし、保険が適用された当初は、成長ホルモン分泌不全を伴ったターナー症候群のみの適応で、0.5単位/kg/週(0.167mg/kg/週)の低用量しか認められなかったため、実際は、ターナー症候群のこどもの一部しか治療できず、また治療してもその成績はあまりよくありませんでした。

1999年にやっと成長ホルモン分泌不全の制限がとれ、欧米と同じ0.35mg/kg/週の高用量が認められました。1997年に軟骨無形成症・軟骨低形成症と慢性腎不全性低身長症に、2002年にプラダー・ウィリ症候群に、2008年にSGA(胎内発育不全)性低身長症に成長ホルモン治療が認められました。

このほかに、低身長ではありませんがエイズによる消耗状態と、成人成長ホルモン分泌不全症に成長ホルモン治療が認められています。

我が国では現在、6種類の成長ホルモン製剤が発売されています。すべて遺伝子組換え技術を用いて生成・精製されているので、すべて成分は同じで、ヒトで分泌されている成長ホルモンと同一物質です。

しかし、製剤により開発の経過が異なるため適応疾患が異なります。下の表に示してあるように、成長ホルモン分泌不全性低身長症はすべての製剤が適応していますが、それ以外の疾患はその適応がある製剤しか、保険診療では使えません。

適応疾患 用量 成長ホルモン製剤
成長ホルモン分泌不全性低身長症 0.175 mg/kg/週 ジェノトロピン

ノルディトロピン

ヒューマトロープ

グロウジェクト

サイゼン

BS皮下注「サンド」

ターナー症候群 0.35 mg/kg/週 ジェノトロピン

ノルディトロピン

ヒューマトロープ

グロウジェクト

BS皮下注「サンド」

軟骨異栄養症(軟骨無形成症・軟骨低形成症) 0.35 mg/kg/週 ノルディトロピン

ヒューマトロープ

慢性腎不全性低身長症 0.175 mg/kg/週
条件により
0.35 mg/kg/週
まで増量可
ジェノトロピン

BS皮下注「サンド」

プラダー・ウィリ症候群 0.245 mg/kg/週 ジェノトロピン
SGA性低身長症 0.23 mg/kg/週
条件により
0.47 mg/kg/週
まで増量可
ジェノトロピン

ノルディトロピン

グロウジェクト

また表に示したように、その治療量は同じではありません。成長ホルモン分泌不全性低身長症は、0.175 mg/kg/週、ターナー症候群と軟骨無形成症・軟骨低形成症は、倍の0.35 mg/kg/週が認められています。

プラダー・ウィリ症候群は、0.245 mg/kg/週、小児慢性腎不全性低身長症は0.175 mg/kg/週で開始して、6ヵ月目以降は増量基準にあえば0.35 mg/kg/週まで増量できます。またSGA性低身長症も、0.23 mg/kg/週で開始して、増量基準にあえば0.47 mg/kg/週まで増量できます。

ポイント

成長ホルモン製剤の適応となる疾患は決まっていて、その投与量についても基準があります。

成長ホルモンの治療効果

成長ホルモン治療をすると、平均身長ぐらいまですぐに伸びると思っている人がいるようですが、成長ホルモン治療は、魔法の治療法ではありません。

成長ホルモン治療で、平均身長が健常小児の平均まで達した疾患はありません。平均身長がマイナス2SDを超えるのも、容易ではないのが現状です。

疾患ごとに検討してみましょう。

①成長ホルモン分泌不全性低身長症における成長ホルモンの短期的治療効果

成長ホルモンによりどのくらいの成長促進効果が見られるのでしょうか。

成長科学協会に登録されている症例のうち、前思春期に治療開始した999例の治療成績を解析しました。下の図に示すように、成長ホルモン治療により成長率は大きくなりますが、その平均成長率は1年目が一番大きく8.6cm/年で、2年目は6.9cm/年、3年目は6.2cm/年と小さくなり、4年目は5.8cm/年と治療前の5.3cm/年とあまり変わらなくなります。

身長SDスコアの改善度も、下の図に示すように1年目は約0.5SD改善しますが、その後改善度が徐々に小さくなり、4年で約1SD改善するのが、平均的な治療効果です。

この治療効果は、あくまでも平均なので、個々のこどもがこのような改善度を示すわけではありません。治療効果は、成長ホルモン分泌不全の重症度と治療開始年齢に大きく影響を受けることが知られています。

下の図は、重症、中等症、軽症に分けた身長SDスコアの改善度です。

重症成長ホルモン分泌不全性低身長症の改善度が非常に大きく、すでに2年目で1SD改善していますが、中等症と軽症は5年目でやっと1SDの改善をみています。

また中等症と軽症は治療効果に差がないので、両群を一緒にした上で治療開始年齢別の治療効果をみたのが下の図です。

成長ホルモン治療開始年齢が若いほど身長改善度が大きいのがわかると思います。

以上まとめると、前思春期に治療開始すると平均的に3年間で約21.5cmの伸びと、約0.85SDの身長SDスコアの改善が見られ、成長ホルモン分泌不全の程度が重症なほど、そして治療開始年齢が若ければ若いほど、治療効果が高くなります。

思春期になると、性ホルモンによる成長促進が見られるので、成長ホルモンだけの治療効果がどのくらいかを評価することはできません。

成長ホルモン分泌不全性低身長症の成長ホルモン治療後の成人身長の多数例の報告を、下の表に示しました。

成長科学協会は、日本で成長ホルモン治療が開始されてから、治療適応判定事業を通じて症例を登録し、専門医だけでなく一般医からの治療成績をデータペース化しています。

KIGS/ICGS(Kabi/Pfizer International Growth Study/International Cooperative Growth Study)は、ファイザー社のジェノトロピン(商品名)の市販後調査によるデータベースで、主に専門医のデータが集められています。

低身長外来研究会は、専門医のクリニックのデータを集めたものです。まだまだ満足のいくものではありませんが、徐々に成人身長が高くなってきているのがわかると思います。

その原因としては、治療開始年齢が早くなり、治療開始時の低身長の程度が軽くなってきたこと、十分な治療量を使っていること、タンパク同化ホルモンや性腺抑制療法の併用などの治療の工夫がされていることなどによります。

②成長ホルモン製剤の治療量は不十分か

成長ホルモン分泌不全性低身長症の0.175 mg/kg/週という治療量は、ヒトが分泌している成長ホルモンの量に等しいかやや多い量です。

成長ホルモン分泌不全の症状は、成長率の低下にあります。したがって、治療で期待されるのは、健常児を上回る成長率です。健常児と同じ成長率では、低身長の改善はみられません。

しかし健常児の成長ホルモンの分泌とほぼ同量に補充するだけであっても、最初の2年間はcathch-up growth(追いつき成長)が認められます。このメカニズムは、よくわかっていません。

ただし補充量で治療していると、3年以降は健常小児とほぼ同し成長率になり、それ以降の低身長の改善はあまり期待できません。したがって、成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療量は、補充量だけでは不十分だということがわかります。

実際アメリカでは、成長ホルモン分泌不全性低身長症でも補充量の倍ぐらいの0.3mg/kg/週の治療量が認められています。

ポイント

成長ホルモン製剤を投与したからといって、低身長のこどもが平均身長まで背が伸びるわけではありません。健常児に追いつくためには、成長ホルモンの不足分を補うだけでは十分でないのです。

ターナー症候群と成長ホルモン治療

ターナー症候群は、X染色体の異常によっておきる遺伝子疾患です。女の子だけにみられる先天的な病気で、低身長や、思春期が自然にこないなどの症状が出たり、肘から先の腕が外向きになる(外反肘)、首の後ろの皮膚がたるんでいるためにひだができる(翼状顕)などのからだの特徴が現れます。

ターナー症候群の典型的な染色体の型は、性染色体であるX染色体が1本欠けた、「45、X」ですが、正常な「46、XX」ももっているモザイクといわれる型もあります。

発生頻度は、女の子の1000~2000人に1人と考えられていますが、必ずしも全員低身長になったり、思春期が自然に訪れないわけではありません。ターナー症候群と診断された人でも、30~40%は自然に思春期が来ますし、約20%は月経も認められます。

しかし、卵巣の機能が正常でない場合が多く、思春期が自然にきても成熟せず、女性ホルモン治療が必要な場合や、月経が来ても早期に閉経してしまうことが多くみられています。

低身長で発見されたターナー症候群では、治療をしないと成人身長は平均141cmで、健常女子の標準身長158.1cmと比べてマイナス3SD以下の低身長です。

ターナー症候群における成長ホルモン治療と女性ホルモン補充療法

ターナー症候群に対する成長ホルモン治療は、1991年より認められましたが、その時は成長ホルモン分泌不全を伴った症例に限定され、0.5単位/kg/週(0.167mg/kg/週)の治療量しか認められませんでした。1999年になってやっと成長ホルモン分泌不全のしばりがとれ、世界の標準的な治療と同様に、0.35mg/kg/週の成長ホルモン投与量が認められました。

ターナー症候群は、多くは性腺機能不全(女性ホルモンが分泌されない)があるので、女性ホルモンを補充する治療を行います。

ただし、女性ホルモンを補充すると骨年齢が進むため、身長を伸ばすことが難しくなります。そこで、女性ホルモンの補充療法の開始時期を遅らせることで、思春期のスタートを遅らせて、成人身長の改善を図る治療が行われてきました。

しかし、思春期が遅いことが心理・社会面に影響を与えるという本質的な問題に加えて、骨密度が上昇せずに将来的に骨粗霧症になる可能性があるため、近年は健常女児の思春期となるべく近い年齢で低用量から女性ホルモンを補充するように推奨しています。

ターナー症候群の成人身長の改善

ターナー症候群の平均成人身長は、無治療では141cm前後ですが、成長ホルモン治療を早期に行うことでかなり改善します。近年は専門家による実証にもとづく治療法が確立されつつあり、成長率も徐々に改善してきています。

今後もっと早期から治療開始した人たちのデータが解析されれば、平均成人身長は150cmを超すものと予測されます。

早期診断、早期GH治療、早期エストロゲン治療

日本小児内分泌学会では、できるだけ早い時期にターナー症候群を診断し、低身長を改善するための成長ホルモン治療を早期に開始して、12歳から遅くとも15歳までに140cmになるように治療すること、およびその年齢範囲で140cmに達した時点で健常な女の子と同じように徐々に思春期を進行させるために低用量女性ホルモン(エストロゲン)療法を開始するように推奨しています。このことによって、150cm前後の成人身長が期待されます。

しかし、もともと身長が低い場合で、この基準に達することができない時には、話し合って、エストロゲン治療開始年齢を検討することが必要です。また、自然に思春期がきた例でも、経過によっては、女性ホルモンの補充が必要な場合もあります。

ポイント

ターナー症候群は、x染色体の異常によっておきる女性特有の遺伝子疾患です。ターナー症候群の平均成人身長は、無治療では141㎝前後ですが、成長ホルモン治療を早期に行うことでかなり改善が期待できます。

プラダー・ウィリ症候群の成長ホルモン治療

プラダー・ウィリ症候群は、乳幼児期に筋緊張低下(からだが柔らかくてくにゃくにゃしている)、哺乳障害、色素低下、3~4歳から過食傾向、精神発達遅滞、学童期には肥満、低身長、性格障害などの症状を呈する病気で、魚のような囗、アーモンド形の目、小さな手、色白などの身体的特徴を持った病気です。

病気の原因は、15番染色体のq11~13という領域にある遺伝子群が関係していることがわかってきています。

プラダー・ウィリ症候群における成長ホルモン治療と突然死

成長ホルモン治療が世界的にプラダー・ウィリ症候群に認められて以来、全世界から20例以上の突然死が報告されました。もともと成長ホルモン治療を行っていない場合でも、乳幼児期に哺乳不良・感染症、成人になってから糖尿病・高度肥満などの合併症で死亡例が報告されていました。

しかし成長ホルモン治療による突然死は、無治療での死亡年齢と異なり前思春期・思春期の年齢でおこっているので、成長ホルモン治療とはっきりした関連があると考えられています。

多くは高度肥満、呼吸障害がある症例で、成長ホルモン投与により扁桃腺やアデノイドの増殖がおこり、それによって寝ている間に気道が閉塞されることがその原因と考えられています。

そのため、高度肥満や呼吸障害がある症例では、成長ホルモン治療は禁忌とされました。

プラダー・ウィリ症候群は、糖尿病になりやすいので、肥満のある症例では常に食事指導、運動指導などの継続が必要ですが、もともと精神発達遅滞があるので、体重のコントロールは非常に困難です。

プラダー・ウィリ症候群における成長ホルモン治療効果

しかし乳幼児期の筋緊張の低下に対しては、成長ホルモン治療は非常に効果があります。1歳で首が据わっていなかった患者さんに成長ホルモン治療を行い、1ヵ月で首が据わり、急速な発達がみられた例もあります。

6歳まで1人で歩けなかった患者に成長ホルモン治療を開始したところ、筋力が強くなり、半年後には学校の持久走大会に出場したという報告もあげられています。

筋緊張低下を改善することによって、患者さんのQOL(クオリティオブライフ、生活の質)の著明な改善を示した例だと思います。

しかし我が国におけるプラダー・ウィリ症候群に対する成長ホルモンの適応は低身長に対してであり低身長(マイナス2SD以下)がない例では、筋緊張低下があっても治療できないのが、現状です。

プラダー・ウィリ症候群の無治療での成人身長の平均は、男子147.7cm、女子141.2cmと、健常成人よりもマイナス3SD以下の低身長です。成長ホルモンにより成人身長がどの程度改善されたかに関しては、まだ多数例の報告はありませんが、少数例では平均成人身長が男子158.0cm、女子147.7cmと報告されています。

しかしもともとプラダー・ウィリ症候群は、肥満による糖尿病発症の率が高いことが知られています。成長ホルモン治療は血糖を上げる働きがあるので、糖尿病の発症には十分注意する必要があり、その意味でも肥満の症例には成長ホルモンは投与しないほうがよいと考えられます。

ポイント

プラダー・ウィリ症候群の無治療での成人身長の平均は、男女とも健常成人よりもマイナス3SD以下の低身長になります。成長ホルモン治療は効果がありますが、糖尿病・高度肥満などの合併症で死亡するケースも報告されています。肥満の症例には、成長ホルモン投与は禁忌です。

軟骨無形成症・軟骨低形成症

軟骨無形成症・軟骨低形成症は、軟骨の増殖がうまく進まなくなるために、主に手足の骨が短くなり、重症の低身長になる病気です。軟骨異栄養症とも呼ばれていました。

軟骨無形成症は、4番染色体にある線維芽細胞成長因子受容体3型の遺伝子異常であることがわかっています。軟骨低形成症は、軟骨無形成症よりも臨床症状が軽く、一部の遺伝子異常しかわかっていません。

成人身長は、男子で118~145cm(平均130cm前後)、女子で112~136cm(平均120cm前後)と、極端な低身長になります。

軟骨無形成症・軟骨低形成症における成長ホルモン治療

国立小児病院で行った、軟骨無形成症と軟骨低形成症に対する成長ホルモン治療による短期成績を比較すると、症状の軽い軟骨低形成症のほうが治療効果が高いことがわかっています。

軟骨低形成症は、高用量(0.35mg/kg/週)の成長ホルモンの投与が認められており、成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療効果に匹敵する成長率の改善が見られます。

しかし、軟骨無形成症は同じ量の成長ホルモンを投与してもわずかしか改善せず、3年目以降は、ほぼ治療前の成長率しか認められません(下図参照)。

成長ホルモン治療後の成人身長の多数例の報告はまだありませんが、軟骨無形成症では良くてもプラス5cm前後だと思われます。

無治療の軟骨無形成症男子の平均成人身長は130cm前後ですから、成長ホルモン治療を受けても135cm前後にしかならないと思われます。

軟骨低形成症は軟骨無形成症より反応がよいのですが、もともとの自然成長による成人身長が明らかでないので、治療効果を評価するのは困難です。しかし、高用量の成長ホルモンが用いられており、性腺抑制療法を併用した例では、150cmを超える症例を経験しています。

軟骨無形成症・軟骨低形成症に対する外科的治療法として、脚延長術があります。

これは骨折の自然修復過程を利用した治療法で、外科的に骨を切断して骨と骨の間を金属の器具で徐々に広げていき、その間に治癒過程として骨ができてくることによって、足の長さを長くする治療法です。

我が国では、限られた施設でしか行っていませんが、熟練した整形外科医にかかると、2回の手術で10~20mの身長促進が望めます。しかし簡単な手術ではなく、約1年間は車いすと松葉杖の不自由な生活を送る必要があるので、よく相談して治療を開始することが必要です。

ポイント

軟骨無形成症・軟骨低形成症は、軟骨の増殖がうまく進まなくなるために、主に手足の骨が短くなり、重症の低身長になります。成長ホルモン投与の効果は限定的です。一部の医療機関で行われている脚延長術は効果が期待できますが、治療は困難を伴います。

SGA性低身長症に対して行われる成長ホルモン治療

SGA(small-for-gestational age)とは、簡単にいうと子宮内発育不全や未熟児と近い言葉ですが、正確にいうと「生まれたときの身長と体重の両方が、在胎週数の標準値の10パーセンタイル未満である」ことが定義になります。

10パーセンタイル未満というのは、同じ在胎週数で生まれたこどもが100人いたとき、身長も体重も小さい方から10番目未満ということです。この定義は、WHO(世界保健機関)や日本産科婦人科学会、日本小児科学会が使っています。

SGA性低身長症は、SGAで生まれたこどものうち、生まれたときの身長か体重のどちらかが在胎週数の標準のマイナス2SD未満で、2歳までに正常身長(身長SDスコアがマイナ
ス2SDを超える)に達しなかった低身長児と定義されます。

SGAで生まれたこどもでも、約90%は2歳までに正常身長になるので、SGA性低身長症は、SGAで生まれたこどもの約10%ということになります。

SGA性低身長症の自然発育

SGA性低身長症は、前思春期には低身長のまま経過します。わが国では、多数例の成人身長まで追跡調査した報告はありませんが、スウェーデンの疫学データでは、思春期で少し身長SDスコアが改善して、成人身長の平均はマイナス1.8SDと報告されています。

しかし成人の低身長の約20%がSGAといわれており、成人で低身長になる大きな原因のひとつといえます。

よくあるケースは、前思春期に低身長で、思春期の開始が標準年齢(男子11歳6ヵ月、女子9歳9ヵ月)と同じかやや早めに思春期に入り、その時の身長が低く、思春期の伸びは普通に伸びるが最終的に低い成人身長に終わるという「低身長思春期発来」のパターンです。

下の図の症例は、SGAで生まれた女児で、2歳でもキャッチアップせず、SGA性低身長症として低身長のまま前思春期を過ごしました。

10歳に約120cmで思春期に入り、約23cmと良く伸びましたが、成人身長は143mで終わってしまいました。

SGA性低身長症の成長ホルモン治療開始基準

2008年10月にSGA性低身長症に対する成長ホルモン治療が認められました。ただし、成長ホルモン治療開始基準は、学会による定義や、治験を行ったときの条件が異なっていたためすこし複雑で、次のすべての要件を満たさなければなりません。

①生まれたときの身長と体重の両方が、在胎週数の標準値の10パーセンタイル未満である

②生まれたときの身長と体重のどちらかまたは両方が、在胎週数の標準値のマイナス2SD未満である

③2歳までに正常身長(身長SDスコアがマイナス2SDを超える)にキャッチアップしなかった(身長SDスコアがマイナス2SD以下)

④年齢が3歳以上

⑤現在の成長率SDスコアがOSD未満(キャッチアップしていない)

⑥現在の身長SDスコアがマイナス2・5SD未満

⑦成長ホルモン分泌刺激試験による成長ホルモンの分泌が正常であること(成長ホルモン分泌不全性低身長症ではない)

小さく生まれたお子さんがキャッチアップせず、低身長のままで成長しているときは、成長ホルモン治療を受けられるかどうか、専門医にご相談ください。

SGA性低身長症における成長ホルモンの治療効果

SGA性低身長症に対しては、海外ですでに適応が認められており、その治療量で治験も行われたため、0.23mg/kg/週~0.47mg/kg/週という成長ホルモン分泌不全性低身長症に対する治療量の1.3~2.7倍の高い治療量が認められました。その結果、治療効果も高い成績がでています。

わが国で行った治験の4年間の治験成績が報告されています。第1のグループは、0.033mg/kg/日(0.23mg/kg/週)の治療量で1年間治療を受け、2年目以降は0.067mg/kg/日(0.47mg/kg/週)の高用量で治療を受けています。

第2のグループは最初から4年間0.067mg/kg/日(0.47mg/kg/週)の高用量で治療を受けています。

治療前、両グループはそれぞれマイナス3.5SD、マイナス3.4SDであった身長SDスコアが、治療開始から48ヵ月後にはそれぞれマイナス2.0SD、マイナス1.8SDと著明な改善を示しました。

実際に認可された治療では、0.23mg/kg/週で開始して、反応が悪いときには0.47mg/kg/週に増量することになっています。第2グループほどの治療効果は望めないかもしれませんが、かなりの効果が期待できると思います。

わが国では、SGA性低身長児の成人身長に対する治療効果のデータはまだありませんが、ヨーロッパのデータでは、無治療群に比べて、約1.8~2.0SDも改善したという報告もあります。

SGA性低身長症における成長ホルモン治療の副作用

治験時に見られた副作用は、関節痛・下肢痛等の成長痛7.5%、頭痛6.0%、注射部位の出血6.0%などで、重篤なものはありませんでした。

SGA性低身長症に対する成長ホルモン治療で、新たに問題になった副作用は報告されていません。そのため副作用の検査も、成長ホルモン分泌不全性低身長症に対する今までの成長ホルモン治療と同様の血液検査(肝機能、腎機能、血糖、コレステロール、HbA1c、甲状腺ホルモンなど)と尿検査(蛋白、糖、潜血)で良いと思われます。

しかし、SGAで出生した小児は、将来メタボリックーシンドロームになりやすいといわれていますので、血糖やコレステロールには注意する必要があります。

治験の4年間では、糖尿病のマーカーであるHbA1cは、全例正常範囲内でしたが、国立成育医療研究センターでは、SGA性低身長症の成長ホルモン治療中に3例の糖尿病の発症をみたので、家族に糖尿病歴や肥満のある場合には、注意して診ていく必要があります。

ポイント

SGA(small-for-gestational age)性低身長は、簡単にいうと子宮内発育不全を原因とする低身長のことです。2008年10月からSGA性低身長症に対する成長ホルモン治療が認められるようになりました。健康保険の適用対象となるには、いくつかの条件を満たす必要があります。

成人成長ホルモン分泌不全症(おとなの成長ホルモン分泌不全症)

こどもの時の成長ホルモンの働きは、主に成長促進作用ですが、身長が停止し、おとなになっても成長ホルモンは分泌されており、さまざまな作用をしています。

おとなの成長ホルモン分泌不全症の症状を診ることによって、おとなにおける成長ホルモンの働きがよくわかります。

成人成長ホルモン分泌不全症においては体脂肪の増加(内臓型肥満)、除脂肪体重減少、筋肉量低下、骨塩量低下などの体組成の異常、耐糖能異常、高脂血症、高血圧、骨粗鬆症などの代謝障害、活力低下、情緒不安などのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下など、非常に多彩な症状が認められます。

成人成長ホルモン分泌不全症の治療に関しては省きますが、成人は小児の重症分泌不全よりも更に重症の分泌不全だけを治療の対象としているので、現在治療している小児の成長ホルモン分泌不全性低身長症のほとんどの人は、成人になると治療の対象から外れます。

成長ホルモン分泌不全性低身長症を治療している小児で、成人になって成人成長ホルモン分泌不全症の治療対象に該当するのは、頭蓋咽頭腫などの脳腫瘍や、骨盤位分娩(いわゆる逆子)で生まれた時に仮死があり、その後多発下垂体ホルモン分泌不全症と診断されて治療している人ぐらいだと思われます。

したがって、成人成長ホルモン分泌不全症の治療を受ける人は、治療を受けている小児全体の5%以下と考えられています。

成人成長ホルモン分泌不全症で治療を受けるには、成長ホルモン治療をいったん終了して、改めて成長ホルモン分泌負荷試験を行う必要があります。

ポイント

身長の伸びが止まり、成人になっでも成長ホルモンは分泌されており、さまざまに作用しています。重度の分泌不全が認められれば成長ホルモン投与の治療対象となります。

 

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